醒める前に考えたこと

夜が朝のふりをしている
朝も夜のふりをしている

そんなまどろみの一瞬

雨が降るのか気圧がさがっていた
僕は妙に冷たい空気を吸い込んで
少しだけ目を冷ました

目覚まし時計がとやかく言う前に
遠くに行こうと思った

朝靄の中を泳いで
真夜中のジョギングコースは通らずに

できれば僕の知り合いはいない世界へ
できれば僕は僕でない名を名乗って
できればまったく別人になって
できれば海岸で
できれば時間の流れがゆるやかで
できれば見通しのよい丘に家を作って
できれば妻と犬を持ち
できればささやかな贅沢をして
できればいつの間にか
死んでしまいたい

そんな世界で猫をなでながら
潮風に頬をなでられながら

「僕」ではなく「俺」と言って
「17歳」ではなく「君より少し老けてるだけさ」と言って
日本人ではなく東洋人と名乗って

そして太陽とともに目を覚ましたい
白い月に見つめられていたい

ピピピピピピ

目覚ましが朝を告げた
朝はもはや夜のふりはしていなかった
天気予報が今日は快晴ですと告げた

外に出てみるといつも通り快晴の坂道があった
ジョギングコースをたどって
一限に間に合うようにギリギリ学校に着くと
自転車に乗った友人がはっきりと僕の名前を呼んで通り過ぎていった

今日も世界は僕の知っている世界で
僕自身も昨日とあまり変わらない

まぶたが開く前に考えた世界はどこにもなくて
まぶたが開く前に考えた僕はどこにもいなくって

溜め息をついた

自転車を置き終えた友人が
昨日のテレビ番組のミラノの砂浜美人妻の話をしてきた
「チョイワル親父のワイルド贅沢生活は」よく見る番組だったから
僕は「俺も見たよ」と言って教室に向かった

言ってしばらく、はっとした

はっとしてからにやっとした

小さいことだった
口をついて出た"俺"に俺は興奮していた

だけど新しい世界の幕開けはこんなもので充分だった

その証拠に教室に着くと早くも世界は変わりつつあった
窓の外
巨大な積乱雲が空を覆い風が吹きあれていたのである

追い討ちをかけるようにすぐに雷が鳴った

俺は鼓動がどんどんと加速していくのを感じていた

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