消しゴム爆弾

閉館のアナウンスが大学の図書館に鳴り響いた
時計を見ると、なるほど、21時まで10分もないところだった
荷物をまとめて席を立つ
すでに図書館の中はガランとして、いつにも増して静かだった
ひどく機嫌がいいのは、好きな作家の本が思ったよりも素敵だったからだ
そんなことで機嫌がよくなるほど僕は情緒不安定だ
ニヤニヤしながら出口に向かう
不審だ
気分がいいから、ゴミを拾う
今なら、あの憎たらしい満員電車の中でも、隣の人に席を譲ってしまいそうな気がする
そのくらい僕は清らかな気持ちだった
だからゴミを拾う
誰かが捨てなかった紙くず
名も知らぬ会社の空き封筒
机や床に落ちたゴミを拾って、僕は不思議な達成感と刹那的な博愛心に満ち溢れれる
ふと白い変なものを見つけた
ケースのない、裸の消しゴムだ
ただし不可思議な形状をしている
先端と後ろは普通に使われた後と同じように、カスをつけながら丸くなっているのだが、本来なら四角柱であるべき本体は、あきらかに人の手によって不自然にくりぬかれていた
規則的に小さく四角くいくつも切り取られ、なんだかまがまがしい
まるで前衛の立体造型のようだ
しばらく呆然と見つめていた僕は、それを手にとると一度ニヤッとした
図書館にゴミの中放置された誰かの消しゴム作品
もはや消しゴムとしての運命を果たすには不都合すぎる姿となったそれは、作った誰かにとっては遊びの副産物に過ぎなかったのかもしれない
しかし今、情緒不審の僕に発見されたことで、なんらかの非言語的な芸術性を見出され、他のゴミと一緒に消えるためだけの運命から外れたのだ
僕はニヤッとした
ニヤッとしながら、図書館の出口に向かい、それ以外の拾ったゴミは全て捨てた
図書館を出て、さてどうしたものか
とりあえず記念に撮影しておこうと考えた僕は、充分な明かりがある場所を探した
21時を回ったせいか、思うように明るい場所は見つからない
大学の中をさまよって、運よく明かりの点いている教室を見つけた
適当な机にそれを置いて、僕はケータイを構えた
パシャー
まるできちんと撮れたような音がして、撮影は終わった
僕はなんだか自分の力で一つ成し遂げたような気分になって、それを見つめた
なんだかまがまがしいそれは、やっぱりなんだかまがまがしいままだった
僕はそれを持ち上げて、教室の前にある教卓の上に置いた
卓のど真ん中に教室に対して垂直になるように置いた
ひどくその位置に気を付けて、ぴったり真ん中になるようにし、鎮座させた
それは、もしかしたら今日にも清掃員によって捨てられてしまうのかもしれない
でももし誰かがそれを見つけたら――
さらには見つけた誰かが非言語的な意味を見出したら――
僕はニヤッとした
それは卓の真ん中で教室と対峙しながら、さも大義そうにそこに置かれたまま動くことはなかった
僕は教室に消しゴム爆弾を仕掛け終わるとと、すぐに大学を出た
帰りの電車は相変わらず満員御礼だったが、僕は席が空くと迷わず真っ先に座った
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